嚆矢祭-其之百九- 土田 康彦 ヴェネツィアンガラス展 水溜り

■会期

2021年1月28日(木)~2月7日(日)【会期中無休】 10:00~18:00

大雅堂1・2F展示室

作家在廊予定日:全日在廊予定

■展覧会に向けたコメント

水溜り

 好奇心がなくなった時点でアーティストを辞めよう。そう思ったのは、ある日の雨上がりの午後だった。

 大理石の教会の横を抜けると、明るい空間が忽然と現れる。四方を囲むカフェや花屋の賑わいが石畳に反響するその広場の真ん中には、中世の面影を色濃く残した古井戸があり、広場と小道をきっぱりと区切る陰翳に自身も染め分けられながら、僕はなんの気無しに歩いていた。

 目の前では、子供たちが楽しそうに遊んでいる。幼稚園の同級生なのか、それとも近所の遊び友だちなのか、男の子と女の子がふたりずつ、古井戸の近くにできた三つの水溜りではしゃいでいる。大人が避けて通る水溜りに、敢えて入っていく子供たち。ピチャピチャと音を立てながら通り過ぎたかと思えば、ひらりと振り返り、五メートルほど走って戻ってきては、ホームで電車を待つ人たちがそうするように、整然と列を作って、自分の番が来るのを待っている。そして、またワクワクと、水溜りへ向けて歩を進める。まるでディズニーランドにでも来たかのようなテンションで夢中になって繰り返す。靴もズボンも、とうにずぶ濡れだ。

 しかし彼らの表情は、ただ遊んでいるようではないのだ。水面の下には何があるのか。どこが深くてどこが浅いのか。より大きな音を立てるにはどう踏むべきか。一心に思考しているように見える。手で触れ、足で踏んづけなければ解明されないそれらの課題に取り組む表情は、真剣そのものだった。彼らにとって肉体は思考の完全なる師であり、師を喜ばすべく何度でも水溜りに入っていく。小さな胸が満足と達成感でみたされるまで、全身で水溜りを発見し続けている。そうだ、彼らは好奇心の塊なのだ。あくまで自らの肉体を通して答えを得ようとする、純粋かつ素朴な好奇心の塊だ。

 しばらくすると、ひとりの男の子が水溜りの真ん中でジャンプをはじめた。工夫をしているのだろう。より高い波を跳ね上げるにはどう踏みつけるべきなのかを。彼の表情はさらに真剣さを増し、美しく輝きはじめた。

 その時、子供たちは僕のマエストロだった。

 絶筆の日が少しでも遠のくように、僕は必死で抗っている。

 

土田康彦 二〇一五年夏 ヴェネツィアにて。

■プロフィール

1969年 大阪市に生まれる

1988年 辻調理師専門学校卒業後渡仏。パリで食と芸術の道を志す

1992年 ヴェネツィアに移り、老舗レストラン・バー「ハーリーズ・バー」に勤務するかたわらイタリア各地で絵画作品による個展を開催

1995年 ムラノ島でガラス制作を開始

1996年 スキアヴァン・ガラス社アート・ディレクター就任

    ガラス彫刻バンブーシリーズを発表。世界各地で展覧会を開催

2003年 ヴェネツィア・ガラス研究所理事長就任

2004年 デュッセルドルフ名誉技術賞受賞

2008年 文化振興貢献者褒賞受賞(グロッセート市、トスカーナ州)

    第11回彫刻およびインスタレーション・オープン国際美術展(ヴェネツィア)に日本代表として参加。最優秀グランプリ受賞

2012年 個展(軽井沢ニューアートミュージアム)、イマジン・シリーズを発表 2013年 個展(NewArtLab/銀座)、運命の交差点シリーズを発表

2014年 第53回日本現代工芸美術展 現代工芸賞受賞

    同展は京都市美術館、金沢21世紀美術館など全国8か所を巡回

    琉球ガラス村(沖縄県糸満市)の招きで4か月滞在し、新作<民族性・DNA>を制作

2015年 ミラノ万国博覧会の日本館にて、書家・アーティストの紫舟による書をモチーフにしたガラス彫刻作品を展示。日本館は最優秀金賞受賞

    作品集『運命の交差点』出版。第57回全国カタログ展でフジサンケイビジネスアイ賞と部門賞金賞受賞

    個展「DNA-民族性」(沖縄県立美術館)

2016年 第15回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展の日本館で、403architecture[dajiba]による《ヴェネツィア橋》の制作に協力。日本館は審査員特別賞受賞。

    個展 嚆矢祭-其之九十八-土田康彦 ヴェネツィアン・ガラス展(大雅堂/京都)

2017年 イマジン・ミュージアム(フロリダ州)が〈孔雀〉〈蜃気楼〉、〈ウインドウ〉を永久所蔵

2018年 ラシーン美術館(ウィスコンシン州)のグループ展「GlassCollection」に〈孔雀〉シリーズを出品

    個展 嚆矢祭-其之百三-土田康彦 ヴェネツィアンガラス展 せぬひま(大雅堂/京都)

2019年 トヨタの高級車レクサスのCMに作品を提供。

    回顧展「1969~2019ヴェネツィアの伝統と革新 土田康彦」(日本橋三越本店画廊)

    第7回日本美術展覧会(日展)に入選。(新国立美術館)



作品紹介

【水溜りシリーズ】

「不思議に思うこと」

18×27×27cm

¥440,000(税込)

「まっしぐらな心」

40×8×8cm

¥495,000(税込)

「ゆずらぬ心」

39×7×7cm

¥495,000(税込)


【楽時碗シリーズ】

「迷路」

10×9×9cm

¥220,000(税込)

「空の鏡」

9×10×10cm

¥220,000(税込)

「ときめく理由」

10×9.5×9.5cm

¥220,000(税込)


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(2021年6月16日現在)

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展覧会風景