荻野 丹雪 展
◆会期
2013年11月1日(木)~11日(日) 10:00~18:00(会期中無休)
◆展示内容
この度、荻野丹雪展を開催致します。
弊廊の地下1階~3階までを、Ⅰ近作小品展、Ⅱ造形・般若心経を中心に、Ⅲ私の仕事展(書とデザインのはざまで)の3テーマに区切り展示されます。
3階に展示予定の大作(250×800㎝)をはじめ、小品から大作の額や掛軸を含む約30点と「私の仕事展」では荻野先生がデザインされた色々な作品を展示致します。是非この機会にご高覧下さいませ。
<作家より展覧会へ向けて>
個展をする度に私の原点探しがはじまる。今だ、私は確かな手掛かりが、つかめぬまま作品創りを楽しんだり、苦しんだり・・・・・・。書かデザインか―――。文字か抽象か―――。やはり多種多様な表現が私らしさということになってしまう。今回の主なテーマは「造形・般若心経」。仏教のこともよくわからない、ましてや悟りなど手にしたこともない私が、なぜに般若心経などと。
京都にある浄瑠璃寺(九体寺)の大僧正 佐伯快勝師が、平成二十一年に密教教化賞を受賞された。その記念のお祝いにと、新造された釈迦如来像の胎内納入のための謹写に当たらせてもらったという有難いご縁にはじまる。細事八千字の巻物に精魂こめたあとの反動のようなものなのか、やたらでっかいものを創りたくなった。高さ二、五メートル、幅八メートルに二七六文字。精神を体得するとか、鎮魂の思いとか難しいことはさておき、造形への志向が先にたってしまって、墨をぶっつけたり、ひっかいたり、画面の上で、無目的な遊びをしたに過ぎないのかも知れない。仏さまに叱られるかもと思う反面、見護られているという安心感のようなものが、入り混じった制作の日々。
想像のなかでしか見えないものを墨象という形で現わした作品大小約30点。併せて、日頃の私の仕事(デザインと書)の一端をも展示いたします。ご高覧いただければ嬉しく存じます。
平成二十四年十月
<萩野丹雪の新たなる挑戦>
美術評論家 建畠晢
書から抽象画、グラフィック・デザインにわたる広汎な領域で活躍してきた荻野丹雪が般若心経をテーマにした個展を開催する。いや、考えてみれば“テーマ”という言葉は必ずしもこの展覧会にはふさわしくないかもしれない。門外漢の私に分かったようなことをいう資格はないが、見るものも聞くものも、すべて幻であるという般若心経の教えに従うなら、ニ百六十二文字が記された画面は、墨象家としての作者の造形であると同時に心を無にしての写経でもあるに違いないのだ。
ところで例の小泉八雲の怪談に収められた「耳なし方一」で、寺の和尚が盲目の琵琶法師の名手の肌に記した経文が般若心経であったことを覚えておられるだろうか。盲目の方一が平家の亡霊に耳を引きちぎられるのは和尚が耳だけにお経を書き忘れたからだが、私にいわせれば、その時、盲目の方一は耳をも失うことによって般若心経の深遠なる真理を文字通り体現したのである。骨太にしてまた繊細でもある造形力に恵まれた墨象家、荻野丹雪の、真剣勝負の画面が心静かな境地につながってもいる新たなる世界への挑戦に、般若心経が自ずと浮かび上がってきたという“仏縁”は、そう考えれば必然的な成り行きでもあったのだ・・・・。
■プロフィール
1939年兵庫県丹波生まれ。グラフィックデザインの仕事をしながら、1970年頃から書の道に傾注。多数のグループ展の他、17回の個展で作品を発表してきた。
伝統的な書や墨をベースにした文字作品から抽象画まで。また商品デザイン及びマスメディアにおいてよく知られるものに、ウイスキー「響」、花博「咲くやこの花舘」、NHKテレビ小説「あすか」、大河ドラマ「新撰組!」等の題字がある。